生まれ故郷に昔からある百貨店が来年で閉店することが決まった、というニュウスを割と最近知った(発表自体は私が知る何ヶ月も前からされていたらしいけれど、私は気づいてなかったのだった)。
ポイント・カアド等の精算のために母が行くというので、随分久しぶりに其処に行くことになった。
私が子供の頃は、町の中心部で、人通りの多いところだったけれど、今は平日だろうと週末だろうと閑散としている。昔はあんなにひとでごった返していたのに、郊外にショッピング・モールが出来てからは寂れてゆく一方で、もう「中心部」の「再生」なんてあり得ないだろうな、とは思っていた。でも、その百貨店が消えるなんて考えは浮かんだことがない。それは在って当たり前の存在だったから。
「三越」同様、呉服商から始まり、後に百貨店として名を馳せるようになったいわば老舗であった。老舗だろうと何だろうと、「今」受け容れられるナニカがなければ、見捨てられるのだという単純な事実を考えないようにしていた、ように思う。
母とふたり、済ませるべき用事を済ませたら、存外時間が多く余ってしまい、最上階にあるレストラン(?)に入ることにした。母は珈琲を、私はチョコレエト・パフェを頼んだ。
このテナントに、そもそも入ったことはほとんどない。此処でなくとも、この百貨店がある通りには沢山の飲食店があったし、行きつけの喫茶店なんかもあったりした。それより何より、頻繁に買い物に行っていた頃は、時間帯によっては混んでいて入ることが出来なかったのだ。
私たちふたりのほかに、客は居ない。何とも寂しい光景であった。窓の向こうには灰色の景色が広がっており、かつての活気は何処にもなく、ただただ重苦しい冬の情景があるだけだった。
店員さんはてきぱきとしていて、感じのいいひとだった。客の少なさもあって、頼んだものはすぐに運ばれてきた。
昔ながらの、百合や水仙を思わせるフォルムの厚手のグラス。たっぷりのホイップ・クリィムとチョコレエト・アイスに、スライスされたバナナ。飾りにポッキィが突き刺さっているのが何とも言えない。ある意味とてもオーソドクスな出来映えだ。
……こんな時に限って携帯を家に忘れてきてしまった。「写メ撮ろう♪」なんて思いつつバッグを覗き込んで、自分の迂闊さに項垂れる(なので、以下の画像は参考まで)。

パフェは、美味しかった。抜きん出てどうどのように美味しいか、は私には語れない。美味しい、そう思っただけで。ただひたすら、多分もう二度と食べることはないのだろうな、と思いながら、一口ずつ、ゆっくりと食べた。2枚スライスするためだけにバナナ1本無駄になっちゃったのかなあ、とか、食材とかの在庫はどうなってるんだろう、とか、何だか訳のわからない心配をしながら食べた。
何だか泣きたくなった。美味しいもん食って何で泣きたくならねばならんのであろうか(笑)。
「失くなってしまう」という事実と一緒に噛み締めて食ってはいけない。純粋に、単純に、「ああ、美味しいなー」と食えばいいのに。
走馬燈のように甦る、とはあのことだ。
幼少の頃のことをあれこれ猛スピードで思い出してゆくのだ。
地下のジュウス・スタンドでいちごのジュウスを飲んだなあ、とか。ソフト・クリィムを買った側から落として思わず泣いてしまったら、店員さんが慌てて新しく盛りつけたのを手渡しながらなだめてくれたこととか。アメリカン・ドッグ(アメリカの犬、ではないです。フリッタア風の衣つけて揚げた、串刺しのソーセージですね)はいっつも衣から食べて母に笑われてたこととか。最上階のゲエム・センタアのエア・ホッケーで大勝利を収めたこととか。欲しい玩具の中のどれを買おうかと必死で吟味し、レヂに持って行ったこととか(ちなみに「ジェニー」の服と小物類)。駐車場で「満車」のサインを出されて、数分入口で待たされてたこと、1Fにはすでに入れる場所がなくて、エレベエタアに乗り込んで上の階に行ったこととか。
なくなってしまう。私の思い出まで消える訳じゃないけれど、それを生んだ場所はただのビルになってしまう(解体してしまい、新地にしてしまうのか、そのまま建物だけ残るのか、とか、まったく知らない)。
高校の制服はこの百貨店で仕立ててもらった。自宅から高校までは結構な距離があって、バス通学していたのだけれど、この百貨店前のバス停で乗り降りしていた。時間帯によっては高校生だらけで、鬱陶しいくらいだったけれど、今は高校生自体昔ほど多くは見かけない。
なくなってしまう。そうか。なくなるのか。
まだホントウノコトだと思えない――思いたくない自分が居る。今や自分ですら郊外のショッピング・モールに足を運ぶのがほとんどになっていたクセに。いざなくなるのだと思うと、……こんなにもサビシイと思うものなのか。
なくなるなんて、思っても見なかった。あれほど客足が遠のいていても尚そう思っていた。
ホイップ・クリィムは少し甘め。それに対してチョコレエトのアイスは少しほろ苦くて、甘さ控えめ。ややしゃりっとした食感がある。チョコレエトのシロップはアイスよりは濃厚で。
何処の店にだって、チョコレエト・パフェくらいある。何時だって食べられる。でも、このお店のそれはもう食べられない。
出来るだけ、窓の外を見ていた。グレイだった風景に暗幕が下りている。冬は暗くなるのが早い。
ぼんやりと夢想する。かつて憧れの対象だった建物が、ヒトという血液の通わない、外観だけは辛うじて保たれているただの「廃墟」になる。下ろされたシャッターが錆びついていく。開店を待って入口の前に立つ客も居ない。
その町の栄華と繁栄の象徴ですらあった場所が、風雨に晒された骸のように朽ちてゆくのを待つだけの存在になる。
ホイップ・クリィムの甘さを憶えておこう。小さい頃飲んだ冷たくて甘酸っぱいいちごのジュウスの味だってまだ憶えているんだから、きっと忘れないだろう。
ひどく寒い日だった。私は風邪をひいた。