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ひと目で解る良い会社の運営法―採用・募集から解雇・退職まで
吉田 正敏 ![]() 常務に呼ばれた時、厭な予感はしたのだが、アッサリ的中してしまった。 「突然だし、言いにくいことだけど、試用期間も終わりつつあります。で、解雇することに決定しました」。 あ、そうですか。はあ――そんなコメントしか出てこないなあ。で、理由は? 「まず第一に、風邪、治らないよね。健康面に不安がある。これから先、ますます忙しくなるから、このままやらせていっていいものか、という不安が大きいんだ」。 確かに私は風邪の治りは遅い。サイアク半年くらいはずっとひきっぱなしだし、あるいは喘息に発展しかねない。でもなあ。アンタらが残業だ何だと毎日9時だ10時だと無駄に長居させなかったら、コンスタントに休養取れてたら、もう少しはマシだったと思うがね。 「それから、表情。暗い時多いよね。たとえば朝礼の時なんて俯いてて、すごく表情が暗い。『朝礼やりたくないのかな』と思っちゃうんだよ」。 いや、そりゃ、やりたくないです。あんまりやる意味無い時多いから。でもって、俯いてるのは当日の予定書いた紙を熟読してあれこれ考えてるだけ、なんですが。それはそんなにいけないことでしたか。でもって、真剣にあれこれ考えたり段取り汲んだりしてる時、ヘラヘラ笑ってる馬鹿って居るの? 「作業してる時、舌打ちすることあるよね。あれ、何時かお客さんの前でやるんじゃないかと思うと、見てるこっちは怖くてたまんないんだよ」。 ほうほう。実際やったこと、一度も無いですがね。客の前では。やるかもしれない、という不安が高じてしまわれた、と。そりゃ文句言えませんなあ。客の前でなら舌打ちしてる暇もねえっつんだよ。それ以前に常務、客の前でいきなり何にキレたかわかんないけどごっついムッとした表情浮かべるの、どうにかして下さい。 「あと、時々こっちがどきっとするようなこと言うでしょ。前にみんなで冗談言ってた時もねえ……」。 その場のノリで、皆笑ってましたが、そうですか、常務は気に入らなかった、と。ちなみにそのジョーク、私が言い出しっぺではないのですが。乗っかって一緒に笑ってたのが駄目だったのなら、其処に居合わせた全員にそう言ってるんですよね? でもって、具体的にどういう発言にどきっとなさったのか言えっつの。何でもかんでも私が言ったってだけで突っかかってきてるよーに思えちゃってるんだが。私以上にオソロシイこと言ってるのが山程居る中で私だけは不許可ですかそうですか。 てな訳で、私は試用期間をいいことに辞めさせられることになったのでありました。誰もやろうとしない仕事を寒い中黙々とこなすことよりも、自分のミスに苛立って小さく舌打ちする方がよろしくない訳ですね。そりゃそうでしょうとも。実際やらかしてからじゃ遅い、という懸念がおありな訳ですね。判ります。敬語の使い方のなってない電話応対をしてる従業員を窘めることはしなくても、ちょいとブラックなジョークに笑うことの方が危険な訳ですね。判りました。 今まで言われたことのないよーなことで批判されちゃって吃驚だった。冗談までも真面目に取られちゃってんのか。私以上にキッツイことヌカすひとも居れば、部長のカル〜〜い(時々かなりヤバイ)せくはらジョークも聞き流すクセに、私「だけ」は不可・不許可なのですね。しょーがないです。はい。私が全て悪いです。ええ。あ、でも、表情暗い、それはもうオヤに言って下さい。こちとらフツーにしてただけ、てのがほとんどですから。考え込んだ時の顔にまで責任持てなくて申し訳ないです。 ……もとい。体力面に自信が無かったのは事実。今後も残業を無くするつもりは皆無らしく、私の体調を見るにつけ任せてゆくのは不安、と思われるのも無理は無いなあと、その点に関しては納得。でも、皆に支給してる防寒用のスタッフ・ジャンパア、私にだけはくれなかったよなあ。待遇面で軽く差別されてたと感じる私の器が小さいのか? 正直ごっつい不愉快だったのだが。おまけに寒かったし。それでも作業してたんだけど。それで「風邪治らないねえ」とだけ言われましても。治る理由が何処にも無いのに治りますかね。 風邪をひく、それは確かに私の体調管理不行届きでありましょう。しかし、治らないのに一役買ってるのは作業環境だの残業の多さ・長さだったとも思うのですが。それは無視ですかそうですか。 何というか、黙ってとりあえず「はあ、そうですか」と聞きはしたものの、内心「結局アンタが気に入らないから、ってことなのね」としか思っていなかった。「表情が暗い」と言われても、反論したってどうにもならない。常務にはそう見えてる、んだから。「こういう顔なんですが」と言った所で怒りを買って終わることだろう。冗談のことにしても何にしても反論することそのものが虚しい。 続けていきたい気持ちも、正直無かった。どんなに働いてもカネにならない。残業手当どころか深夜手当すらつくような仕事をさせられてるのに基本給以外出ない。コンスタントな休養も取れず、休日は少ない。時間の拘束のされ方に規則性が無いために、どんな約束も出来ず予定も立てられない。最低限稼げるというだけで、その他の面で続けていきたいと思える要素は皆無だった。 「解雇、ってコトバ、本当に嫌いなんだ。だから、もし紫堂さんがそうじゃない方がいいなら、解雇ということにはしないでおくことも出来るけど」。 言いたい放題言ったクセに、まだ薄気味悪い偽善を為したいのかね、アンタは。 「いいえ、結構です。『解雇』として下さい」。 辞めたいと思ったのは事実だけれど、実際「辞めます」と私から言った訳では無い。私の意志ではない。受け容れただけだ。 「紫堂さんの態度が改まったり、やる気を見せてくれれば続行、ということもあり得るけど」。 ははははははははは。やる気、無かったらクソ寒い中、誰もやろうとしない仕事、したりすると思ってんの? 残業したくない一心で必死でやってたって気づかないワケ? 「いいえ。これ以上御迷惑をおかけしたくありませんから。父にも言われてたんです。『迷惑は、かけられはしてもかけることはするな』と。退職することも視野に入れておけとも言われてましたから」。 それは事実だ。 「いや、迷惑だった、ということではないんだよ。そういう風に考えないで欲しい。いや、でも、辞めることを考えていた、というのはショックだなあ」。 アンタ、何か微妙に矛盾してないか? 何でショックなんだか。迷惑な存在になるかもしれない、と思ったからこその解雇だろうし。あーん? かくして解雇通告とその受理は終了。私は何処かでせいせいしつつも、一方的な見解を押しつけられたことにゲンナリしていた。けれど、反論する気もなかった。そう見えていた、というならどうしようもない。そうとしか見ようとしないひとに、何を言うことがある? 12月いっぱいで終了。あとは残りの日数をこなすだけ。こうと決まったらとっとと終わりの日が来て欲しいものだ。 |
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