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かもめ食堂
群 ようこ
4344010973

自分が行ける範囲の映画館で上映されるとは思ってもいなかっただけに観ることが出来て嬉しかった。そして、観たこと自体が「嬉しいこと」だった。

サチエさんはひとりフィンランドはヘルシンキで「食堂」を営んでいる。こぢんまりした店内は、いつも清潔ですっきりしており、足りないものも要らないものもない。強いて言えば御客という存在が足りないのだけれど、それでもやるべきことをきちんとやっていれば、いずれ客は来るだろう、と毎日きちんと掃除し、グラスを磨き、来客に備え、翌日のための買い出しに出かける。
ようやく来た客は日本びいき(というか、……日本おたく、かな)の青年・トンミ。客第1号の栄誉故に、彼に供される珈琲はいつであっても無料だ。
そのトンミに突然「ガッチャマン」の主題歌を全部教えて欲しいと言われるも思い出せないサチエさん。そんなある日書店で「ムーミン(の日本語版)」を読んでいる女性を見つけ、思い切って尋ねると、驚きつつもあっさりとすらすら諳んじてみせ、教えてくれる。そんな彼女を家に滞在させてあげることにしたサチエさんと、何だかワケアリのミドリさん。

ゆったりした空気が流れているのに、物語は結構テンポよく進む。けれど、さかさかした落ち着きの無いそれではなく、どこまでもゆったりと心地いい。
サチエさんはヘルシンキであっても、看板メニュは「おにぎり」にしている。それが日本のソウル・フードだから。それに、何処で食べようと美味しいものはきっと美味しい。そう信じている。
そんなサチエさんが、ミドリさんを家に滞在させ、最初に振る舞った食事は、簡素と豪華の両方を備えたたいそう「立派な」和食だった。これぞ、ザ・日本のごはん! と言いたくなるような、何というか無駄のない組み合わせの。
ガス火を使って鍋でごはんを炊き、御味噌汁を用意し、鮭を焼き、煮物をつくる。ごはんはふっくらと美味しそうに炊けていた。きっとサチエさんはそれを当たり前のこととしてやっているのだろう。とても手際よく、小気味よいくらいの手さばきでささっと盛りつけてテエブルに並べる。
ミドリさんがごはんを一口含むなり泣き出した時、何故か私まで泣いた。「なんでもない」一口のごはん。ミドリさんに何があったか、それは誰にもわからない。でもどうしてか泣けた。

少しずつ店に「変化」が生まれた所に現れたマサコさん。荷物が届かず待たされている。何が出来るでもない――そもそも、何をしに来たんだろう? マサコさんは何処か泰然としていた。同時に何だか飄々としていて、どこか軽やかでもあった。荷物を待つ間、やはりと言うべきか、この「かもめ食堂」を手伝い始める。
様々なひとが様々なナニカを抱き、時には背負いつつ、この食堂をふらりと訪れる。

日本とは時間の流れがまるで異なるかのような街で、サチエさんもミドリさんもマサコさんも、それぞれもたれ合うでもなく干渉もせず、淡々と、でも楽しく過ごしているのが何だかとても羨ましかった。
私が思っていた以上にこの映画を楽しみにしていたひとは多かったらしく、それなりに座席は埋まり、場内は時々ツッコミと笑いで満たされていた。私たちは多分、あの「かもめ食堂」の客になるために来たのだ。ふらりとただ立ち寄って美味しいもので自分を満たすために。

カフェでもレストランでもなく、「食堂」。誰でもふらりと訪れることの出来る、気の置けない空間。サチエさんはてきぱきと、ミドリさんは時に豪快に、マサコさんは丁寧に動き働く。それが当然でフツウで当たり前みたいに。
その「当然でフツウで当たり前」な空間にこそ、何故か魔法のように素敵なこと(と、何だか得体の知れぬオドロキと)がふ、と現れるのを観るたびに、何だか胸が締め付けられるような感覚と、ふんわりとやわらかくあたたかさを宿すのを感じるのだ。

何て気持ちのいい映画なんだろう。何て心地のいい空気が流れてるんだろう。澄んだ空気とか街の匂い潮の香りとか、そんなものまで伝わってきそうな美しさだった。それから、揚げ立てのとんかつの匂い、生姜焼きの香ばしさ、おにぎりのあたたかさと(おなかが空く映画だ! どれもこれも美味しそうなのだ。つくりたてのシナモン・ロオルや、美味しくなる呪文を唱えて淹れる珈琲なんて味わってみたいに決まってる)を、こちらにもさあ寄越せ! と言いたくなる。

サチエさん役の小林聡美さんはフィンランド語が堪能という役どころなのだけれど、本当にぺらぺらと流暢に話されていた。すごい。サチエさんという個性にぴたりと気持ちよくはまっていて、何処か凛とした堂々とした佇まいがあるのに可愛らしさもあって見入ってしまう。
ミドリさん役の片桐はいりさんは、いつも「個性派」云々と言われるけれども、この作品の中ではごくフツウの、何処にでも居るような迷いや悩みを持った女性を好演していた。何でもないようなヒト、でありつつも、ミドリさんがどういう女性であるのかがちゃんと伝わってくる。何でもないようでいて、ミドリさんだけが持ち得るであろう個性を感じさせるのだ。
マサコさんは、最初から彼女を想起しつつそう名付けたのだろうかと思わずにいられないもたいまさこさん。ちょっと謎めいているけれど、肝の据わった女性。背負ってきたものがあるけれど、それにどう耐えたかをひけらかしたりはせず、そういうことがあったのよ、という風にだけ語れる強さと穏やかさがある。

日本のかもめは何だか意地の悪そうな顔をしているのだけれど、この映画で観たかもめはどれもみなふくふくとして丸く、可愛らしかった。まるでフィンランドという国がそうさせたみたいに(いや、単純に種類が違うのかもよ)。

おにぎりの具は梅・鮭・おかか。この3つ。あつあつのご飯に具を入れて手際よく握って、海苔を巻いたら出来上がり。それだけのものだと観ている私たちもわかってる。それでも、あれほど食べたいと思うものはないのだった。

ぜいはあ言って頑張るだけが頑張るってことじゃないんだ、としみじみ思わせてくれる。頑張っても意味なんて無いのに、とちょっとキモチがささくれ立っていたりすると妙に染みる。焦るだけが、誰かと張り合うだけが、熱心であることだけが「頑張る」だったり「ちゃんとしてる」なんて思わなくていいんだ、と何となく安心する。そして、「誰か」にもたれなくても、自分で立つことが出来るなら、それがどんな場所であってもどんな時でも、多分「どうにかなる」ものなんだろうな、と。べたべたした関係などなくても、ひとは「明日世界が終わるかも知れないって時に、一緒に美味しいごはんを食べたい」と思えるような間柄になれるんだと。
サチエさん、ミドリさん、マサコさんの心地よい距離感もまた何だか清々しくて、見ていて気持ちよかった。

そうそう、これも是非、と思ったのがあったんだ。
わたしのマトカ
片桐 はいり
434401135X

片桐さんが撮影時滞在中に経験したことなどをまとめたエッセイ集。装訂もまた可愛らしく上品。中身も抜群の面白さとのことです。読みたいー。


この後は私が個人的に楽しかったり盛り上がってたりしたことをうだうだ語ってるだけ(+ディテイルでネタバレ有)、ですので、特に興味のない方・未見の方はスルーで。

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かもめ食堂・パンフ。これが「かもめ食堂」パムフレット。いやもう観たまんま可愛らしいデザインで、それだけでも嬉しいのに、中身もなかなかの充実振り。なのに¥600でいいのね……素晴らしいわ。旅行鞄のカタチで、上下にぱくん、と開いて見るようになってます。外見より本文の用紙はやや小さめ(というよりも、本文の用紙が正規の?B5で装訂がそれを綺麗に覆うようになっているので大きめになっている、と)。
過不足ない記事と、沢山の美しい(そして楽しい)劇中のスチール満載です。眺めてると思い出してにんまりしてしまう。かもめ食堂で客に配られるメニュもちゃーんと載ってます。これも何だか嬉しい。あの味のある字と絵で綴られたメニュ、いいなあ(ちなみに、公式HPでも見られます)。ちょっとした撮影秘話なんかが読めて、撮影期間中も参加者が皆楽しんでつくったように見受けられてますます羨ましかった!

フィンランドが舞台でありつつも、「ほーれ、これ見よがしにふぃんらんどぢゃ!」という感じがないのもよかった。それでいて、出てくると嬉しいなあ、なテイストは盛り込まれてる。マサコさんが荷物が届かなくて同じ服ばかり着続けているから、と買い物に行った先は「マリメッコ」! あの有名な花柄プリントのドレス(=ワン・ピース、の意味で使ってます)なんかがどどん! と登場し、あまつさえそこでホントに買ってきたドレスを身に纏って登場したマサコさんには正直笑いを堪えることが出来なかった(でも、あの有名な花柄の、ではないのよ)。何だろう、あの飄々とした地味さ加減には似合うようで似合わぬようで似合って…るのか? なマリメッコの服って(笑)。「そんなベタな柄、地元のその辺歩いてるヒト着てないよー」なのをフツーに着て歩き回っちゃう所がいいんだな。

ミドリさんはミドリさんで、トンミに「自分の名前を漢字で書いてくれ」と言われて、迷わず(私たちのイヤな予感予想通り!)「豚身」と書いてくれるし(場内ウケまくりでした)。

ごっつい怖い顔で何故か店を睨みつけるオバサマと、その後の顛末も良かったなあ。自分からオーダーした強~い酒を飲み交わすことを暗に要求し、応えられたのはマサコさんだけ。それも余裕たっぷり。何とオバサマは2杯目にしてぶっ倒れる。マサコさんが何でもないことのよーにてきぱきさくさくと片してゆくのだ。オバサマはいきなり夫に出ていかれて疲れ切っており、誰かに手を差し伸べて欲しかったのだろう。何も言わないオバサマを理解したかのように付き合うマサコさん。驚きつつも見守るサチエさんとミドリさん。
でもって、日本には魔術はないか、と尋ねるおばさま。丑の刻参りを教えたら、オバサマ、わら人形までハンドメイドでこしらえて、言われたとーりに実践。しかも、それがちゃんと亭主に効く(笑)。わら人形に釘を打ち込むシーンであれ程笑いを誘う映画も無かろう。呪いも国境越えました(笑)。ホントに太くて五寸はありそうな釘を使うんだよー。「IKEA」製だったら笑う(はっはっは)。

カナシイことは起きないし、ものすごく大変な大事件が起きる訳でもない(ちょっとした事件はアルけど)。それでもとてもとても楽しかった。場内が和やかで笑いがこぼれていたのと、男性客も居たのが何だか嬉しかったです(しかも、レディス・デイなのに!)。
  
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muddy mixture│09/21 21:35
     
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